残り開催期間わずかの富士の山ビエンナーレに行ってきた

先日、富士川サービスエリアで富士山を見てきたという記事をエントリーした(2014年11月18日 富士川サービスエリアから見た富士山)が、静岡に行った真の目的は、実はこれだったりする。

するがのくにの芸術祭 富士の山ビエンナーレ ホームページ : http://fujinoyama-biennale.com

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富士の山ビエンナーレは、今年から始まり、今後隔年で開催される芸術祭(これをビエンナーレと言う)で、静岡県の富士市、富士宮市、静岡市の3市をまたいで行われているアートプロジェクトである。

近年は全国各地で町おこしのアートイベントが行われているが、この富士の山ビエンナーレは、複数の行政区にまたがって開催されること、イベントの運営母体が市民有志からなり、会社経営者や建築士、漁業関係者などのさまざまな業種の人たちが企画運営にたずさわっていることが特徴であるという。

イベント会場は鷹岡エリア、富士本町エリア、富士川エリア、蒲原エリア、由比エリアの5つからなり、電車で回ることも可能だが、現実的には車で各会場を回るのが一番効率的だろう。ぼくたちは、富士川駅で合流し、まずは富士本町エリアを目指した。

最初に訪れたのは旧加藤酒店。ここではアーティストの清水玲さんが建物全体を使用して〈穴をとりまく猛禽と子羊〉というインスタレーションを展開している。

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建物に掲げられた看板。どうやらこの酒店、戦時中は配給用ビールの荷さばき所になっていたらしい。

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建物内の内壁にはこんなシールが。「品質優等吟詰の章」と書かれている。

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酒店の倉庫になっていたと思われる場所に、ぽっかりと穴が空いている。これが作品の一部なのだ。たまたま作家の清水さんがいらっしゃったのでお話を聞いたところ、最初に会場を片付けしている際にコンクリートを埋めた痕跡があることに気づき、掘り返したのだという。掘り返した土はすべて土嚢に詰めて、穴の横に積んである。

この埋められていた穴は、防空壕、あるいは戦時中に禁制品だったお酒を隠すための穴だったんじゃないか、と清水さんは推測している。

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酒店の中を整理していると、戦時中を思わせるいろいろな用具も出てきたという。これは宣伝用の幟だと思うが、零戦や戦車のイラストが戦争まっただ中であることを思わせる。

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いまでもメジャーな日本盛のポスターも、よくよく観ると戦意高揚のコピーが書き込まれている。

清水さんによると、ビエンナーレのためにこの旧加藤酒店のある富士市のことをリサーチしているうちに、戦時中に「富士飛行場」という陸軍施設が建設されたという事実に行き当たったらしい。この飛行場の建設には多くの住民、学徒、徴用者、朝鮮人、中国人が労働力として動員され、戦争末期には特攻隊の訓練も行われていたのだ。

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そこで、富士飛行場の跡地の現在の様子を空撮した映像作品も展示されていた。戦闘機に乗って命を散らせた特攻隊の視点である。その時、隊員たちがどのような思いで富士山を眺めたのか、観る者はしばし考えることになる。

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飛行訓練を終えた兵隊たちは、最後に特攻隊を希望するかどうかを書面で回答したのだという。その書面は「熱望」「希望する」「希望しない」の三択になっていたという。

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穴を掘っているときに土の中から出てきた瓶なども展示されている。

実際に身体を使って「掘る」という行為が、街の記憶を掘り起こすことと一体になっているのだ。

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漢字の一部が抜け落ちている、従来からの流れの作品も展示されている。妻は、旧加藤酒店の建物が朽ちていくこととひとが手を入れて修繕していくということ、その共通点に感心していた。

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渡り橋を渡った人だけが拝むことのできる観音像は、清水さんの父親の作品だということだ。

この〈穴をとりまく猛禽と子羊〉は、入念なリサーチに基づくプロジェクトアートであることを基本としながらも、映像作品あり、彫刻作品あり、ファウンドフォト的なアプローチやパフォーマンス的な要素もありと、旧家である会場を活かしきった多彩なインスタレーションであった。

さて、次に目指したのは鷹岡エリアである。

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旧佐藤医院の上田尚宏さんの作品〈TEMPUS ≈Quartz〉。

時計は人工水晶でできている「クォーツ」を部品としてその振動数を基準に動いているが、この時計は天然の水晶を「クォーツ」として動くように作られている。このため時間は実際の時間よりとずれており、文字盤の数字は欠落している。人工物と天然物、大量生産品や消費社会について、ぼくたち人間の個性についてまで疑問を投げかける作品だと思った。

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枡屋酒店の福永敦さんの作品で〈ピーカブー〉。酒瓶のふたを開けると、鳥や獣たちの泣き声が飛び出すインタラクティブな作品。

さて、鷹岡エリアを回ると、もう昼過ぎである。この後はどこか途中で腹ごしらえをしながら、由比地区を目指すことにした。この時に出会った倉沢鯵と生桜エビ、生シラスの定食がとても美味しかったのだが、これについてはまた別の機会に書くこととする。

静岡市の由比地区に到着すると、そこはすっかり港町である。あれほど間近に見えた富士山もすっかり見えなくなるのである。

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原藤家で展示をしている平川渚さんの作品で〈通過するもの〉。

平川さんは「編む」という行為で作品を作っている作家さんなのだが、由比は漁村ということもあって、今回選んだ素材は漁網であった。すぐ隣の店舗で桜エビなどの海産物卸を営んでいる原藤家で滞在制作をして完成させた、時間的にも空間的にもスケール感のある作品だ。

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展示場所の壁面に作家からのメッセージが貼ってあった。印象的なフレーズがあったので思わず写真を撮った。

「漁網の目の大きさは、とらないものの大きさだというお話を聞き、糸ではない部分に意識を向け、制作しました」

アート的なものは、生活者の日常の中にあるということだ。こういう説明がひとつあるだけで、普段あんまりアートに親しんでいない地元の人たちにも、現代アートの考え方がわかるようになる。素晴らしい気配りだと思う。

由比エリアでは大法寺書院も回った。

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書院の1階には、部屋を折り紙で覆いつくした作品がある。下野友嗣さんの〈ふるいものにはうやまえ〉という作品。

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折り紙で覆った壁面に、鉄錆と墨による絵画を配していた。

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書院の2階は臼井良平さんの〈海の見える部屋のためのインスタレーション〉。

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和室の三方がガラス窓になっていて、高台に建っているので由比港が一面に見渡せる。海面からの反射光や窓ガラスの透過光を受けて光にあふれる空間の中に、ガラスで制作したペットボトルの彫刻。そして光を印画紙に定着させることによって作られた写真作品。さまざまな光に触れることができる。

続いて蒲原エリアへ戻ることにした。

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蒲原エリアの旧五十嵐邸は、国登録の有形文化財。かつては歯科医院だった建物だ。

ここでは12名の作家がグループ展示をしている。

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ごめんなさい、作品が多かったのもあって作品名と作家名がちょっと一致しません。

ホームページで調べようにもよくわからないんだよなあ。

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バシバシ写真を貼っていくことにする。

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歯科医院として使われていたこともあって、調度品のあちこちの当時の名残を見て取ることができる。

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名家なので倉がある。倉の中には金庫がある。

この日は中庭で「金管五重奏の夕べ」が開催されるということで、関係者のみなさんが会場の設営や料理の準備に慌ただしくされていた。

さて、次に旧蒲原劇場へ。

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鈴木孝幸さんのインスタレーション作品。

ここはかつて映画館であった建物。劇場前のかつて社交場であったであろうホールに、大胆ながらも実は繊細に構成された石積みがどどーんと配置されている。

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2階の映写室の前にはガラス板の上に載せられた砂山の作品。

最初、これはフィルムの原料として使われていたニトロセルロースかなと思ったんだけど、そういうわけではないようだった。

さて時計を見てみると、この時点で午後4時を回っていた。展示は4時半までである。急ぎ富士川エリアへ。

そうそう、この日は朝9時半のオープンから各会場を回っているのだが、効率よく回っても全会場をくまなく見ることは難しいかもしれない。泊まりがけで行くか、ポイントを絞った観覧計画を立てていくことをオススメする。

そんなわけで、富士川エリアも何カ所か会場があるのだが、まっすぐ奥村邸に向かう。

この会場では森健太郎さんキュレーションによる、〈 TO IMAGINE ANOTHER WORLD/LETS PRETEND !
異世界を想像するーどうせなら嘘の話をしようー 〉というグループ展が開催されている。

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時間がなくてじっくり見られなかったが、升谷絵里香さんのインスタレーションが非常に印象に残った。

部屋を整理しているときに出てきた機械。その形状からフィットネス用のベルトマシンと分かるのだが、作家はこの機械が何であるかわからないという仮定に立ち、駆動部に箒を取り付けて、それを一本道で稼動させる。その様子を映像として、部屋の障子にプロジェクションすることで、作品として完結させている。そのSF的な思考方法と世界観にやられてしまった。

最後に期間限定のフジノヤマカフェでお茶。

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この焼きたてのスイートポテトがうまかったです。

というわけで、とても一日じゃ回りきれないほど充実している富士の山ビエンナーレは、来週30日の日曜日までの開催。記事を書くのが遅くなってしまって申し訳ない。

静岡は関東からは遠いイメージがあるかもしれないが、富士宮市周辺は東名で御殿場を過ぎればすぐというイメージなので、興味のある人はぜひ足を伸ばしてみるとよいと思う。


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2 Replies to “残り開催期間わずかの富士の山ビエンナーレに行ってきた”

  1. 初めまして。

    とてもみがいのある作品群でした。
    有り難うございました。

    chapa

    1. chapaさん、はじめまして。
      コメントをどうもありがとうございました。
      最後のほう、駆け足の記事になってしまって申し訳ありません。
      また心に残った展覧会があったら、記事にいたしますのでご覧くださいね。

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