富士川サービスエリアから見た富士山

赤瀬川原平の展覧会を観に行ってから、作家・尾辻克彦の芥川賞受賞作品『父が消えた』を読んでいます。

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まだ読み始めたばかりですが、芥川賞受賞作品とは思えない(いい意味で!)語り口の柔らかさと、登場人物の会話に独特のユーモアがあって、ページをめくる指が止まらず愉しいです。

ところで、その『父が消えた』の作中に、寝たきりの父を名古屋の家から横浜の長男の家まで車で連れて行くというくだりがあります。ちょっと抜き出しますね。

車は高速道路を揺れもせずにスッと走って、富士川のサービスエリアに着いた。道程の約半分である。(中略)車を出ると、目の前に巨大な富士山があった。あまり巨大なので、しばらくは驚いて立ちつくしていた。まだテレビもカラー写真もないころだけど、昔、富士山というのは日本国民の宝物だった。(中略)その宝物の全景が目の前に見えている。それがまるでレンズでのぞいたように、細部まではっきりと見えている。本物の富士山である。素晴らしい天気だった。あまりにも巨大であった。いや巨大というか偉大である。いや偉大というより壮大である。しばらくは茫然として眺め入っていた。

このシーンを読んで、「テレビもカラーテレビもないころ」の、日本人の心の拠り所であった「富士山」ってどんなだったんだろうと思いました。「しばらくは茫然として眺め入っていた」って……。

ちょうど都合の良いことに、するがのくにの芸術祭 富士の山ビエンナーレ2014 に車で行く機会があったので、東名高速で富士川サービスエリアに立ち寄り、そこからの富士山を実際に見てみることにしました。

現在の富士川サービスエリアには、どこのSAにもあるようにスターバックスコーヒーがあり、その店舗建物の裏側のポイントが、富士山が一番見えるポイントでした。

それがこれ。

写真 2014-11-15 8 01 34

35mmの広角レンズで撮ったので、ちょっと遠くに見えてますが、実物はもっと間近に見えました。その壮大さ。そして、こうやって天気が良くて空気がきれいだと、その山肌のテクスチャーをまるで指の腹でなぞるかのように実感できるんですね。

『父が消えた』は尾辻克彦の実体験をベースにしていると言われていて、きっと若い頃の赤瀬川原平もここからこうやって富士山を臨んだんだろうなあと思うと、人生の一場面のディテールをこうして克明に思い描ける才能に嫉妬してしまいます。

その後に合流した妻とも話したのですが、「普段どんな景色を見ているのか」ってのはつくづく大事だなと思いました。


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