#011 レビュー:河出書房新社『世界のおばあちゃん料理』

洋の東西を問わず、cookbookの魅力をご紹介している当コーナー。

前回までは洋書を中心に見てきましたけれど、今回は初めて日本のcookbookを取り上げてみたいと思います。

栄えある1冊目となるのは、こちら!


2016年10月に発売された、河出書房新社の『世界のおばあちゃん料理』(ガブリエーレ・ガリンベルティ著、小梨直訳)です。

本書の概要

このcookbookは、海外では2014年に発行されている『IN HER KITCHEN』の日本版。

@hermoon.herstarsが投稿した写真

日本語訳の出版にあたり、判型やデザイン、表紙の写真なんかがだいぶ変わっていますね。

海外の写真集などの日本版が作られるとき、どうしてこんなチープな造りにしてしまうんだろう?ということがよくありますが、『世界のおばあちゃん料理』は、素朴で好感のもてるアレンジがなされています。

日本版の装丁を担当しているのは、岡本デザイン室の岡本洋平さんと島田美雪さん。

ウンベルト・エーコの『ヌメロ・ゼロ』や、イアン・ジェフリーの『写真の読み方』などの装丁も手がけているデザイン事務所です。

そして本書の翻訳を手がけたのは、翻訳家の小梨直さん。

ティム・バートン監督によって映画化された、ダニエル・ウォレスの『ビッグフィッシュ』を翻訳された方です。

この河出書房新社+岡本デザイン室+小梨直というタッグチームは、マイケル・ポーランの『これ、食べていいの?』でもおなじみです。

著者はイタリアの有名フォトグラファー

さてこの『世界のおばあちゃん料理』の内容ですが、このcookbookは、著者のガブリエーレ・ガリンベルティさんが世界50か国をまわり、それぞれの国で出会ったおばあちゃんたちと一緒に作った家庭料理をまとめた、というもの。

全部で58人のおばあちゃんたちが、自慢の(なかには料理が得意でないというおばあちゃんもいますが)料理を披露しています。

いったいどんな料理が掲載されているのか、気になっちゃいますよね?

でもその前に、ちょっとだけガブリエーレさんのことを紹介させてください。

本書のまえがきによると、ガブリエーレさんは、イタリアのトスカーナ州にあるちいさな田舎町で育ったのだそうです。

古い城壁が町を囲っているような、典型的なトスカーナの田舎町。そこでは昔ながらの生活というものが今でも尊重されていて、素晴らしい「食の伝統」を守りぬくことが実践されてきました。

日本では正月になるとおせち料理が作られ、地方には田植えや収穫を祝う祭りがいまでも残っていますよね。

それと同じように、ガブリエーレさんの田舎町も、狩猟シーズンが始まるとイノシシやキジの料理でお祝いしたり、オリーブの収穫やワインの新酒の完成を祝って親戚一同が集まったりするような場所でした。

ガブリエーレさんは、母や祖母の作る家庭料理を食べ続けたおかげで、大きな病気ひとつせず大人になります。

やがてフィレンツェの写真学校を卒業したガブリエーレさんは、プロのフォトグラファーとして商業誌などで活躍するようになります。

そんな彼があるとき、雑誌「D la Repubblica」の企画で2年間、日記とカメラとPCだけで世界中を放浪することになりました。

急な決定だったので、2週間のうちに家族や親戚の家をまわりって別れの挨拶をしなければならなくなったガブリエーレさん。

ひと通り親戚に挨拶を済ませ、最後にトスカーナから出たことがない祖母のマリーザさんの家を訪ねるのですが、その時にマリーザさんとしたひとつの約束が、本書の誕生するきっかけとなりました。

いったいどんな約束をしたのかは、ぜひ本書をご覧になってくださいね。

本書の内容

『世界のおばあちゃん料理』には58人のおばあちゃんのレシピが紹介されています。

基本の構成としては、ひとつのおばあちゃん料理につき4ページが割かれていて、1ページ目と2ページ目がグラビアページ。

1ページ目がおばあちゃんのポートレートで、2ページ目が料理の完成写真になっています。

3ページ目と4ページ目はモノクロページで、3ページ目が料理を作ったおばあちゃんの紹介文、4ページ目が料理のレシピになっています。

1ページ目のポートレートは、単に人物像だけでなく、料理を作る「場」としてのキッチンが背景になっていて、それだけで比較文化論的な資料にもなっています。

また、料理に使われている材料もおばあちゃんといっしょに写っているので、2ページ目の完成写真と見比べるのも楽しいです。

ケイマン諸島のおばあちゃん料理には、イグアナが使われていたり。

超ビッグサイズのヘラジカのステーキだって、アラスカではれっきとしたおばあちゃん料理だったり。

3ページ目のおばあちゃん紹介では、ガブリエーレさんが一緒に料理をしながら聞いた、彼女たちの生い立ちや家族構成が、独特のユーモアを交えた文体で語られていきます。

(ヘラジカはわざわざハンティングしなくても手に入っちゃうんだ……)

ちなみに、最初に登場するおばあちゃんは、ガブリエーレさんの実の祖母で、最後のおばあちゃんはガブリエーレさんの実母なんです。

ガブリエーレさんの母、パオラ・アニェッリさんはあまり料理が得意ではないのだが、トスカーナ風ティラミスだけは絶品なのだそうだ。

ガブリエーレさんがおばあちゃんのマリーザ・バティーニさんと一緒に料理する姿は、『IN HER KITCHEN』のトレーラーで観ることができますよ。

まとめ

『世界のおばあちゃん料理』には、日本のスーパーマーケットなどでは入手しづらい食材(キャッサバ粉、白トウモロコシ粉など)が数多く登場するので、レシピ集としては実用性が高いとは言えません。

しかし、ただページを繰っていくだけで、人間がそれぞれの生まれ育った地にあって、生命保存に欠かせない「食事」という行為とどのように歩んできたかを、理解することができます。

小難しい理論は抜きにして、おばあちゃんの写真やエピソードを通じて、読むひとは自然に理解することができるんです。

本書に登場するおばあちゃんたちは、みな一様にこう言います。「美味しい料理を作って、家族に食べてもらうことが幸せ」と。

ひとがほかの人間に対して食事を作る、ということ。

そこに含まれる幸福の意味について考えるきっかけを、『世界のおばあちゃん料理』はぼくたちに与えてくれます。

レビュー

『世界のおばあちゃん料理』


(画像をクリックすると、Amazon購入ページが開きます。)

造本装丁  ★★★☆☆3

ビジュアル ★★★☆☆3

コンセプト ★★★★☆4

実用性   ★★☆☆☆2

おいしそう ★★★★☆4

コメントを残す

CAPTCHA